本の感想

「究極の疲れないカラダ」(仲野広倫著)とランニングによる消費カロリーについて

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スポーツカイロプラクターの方が書いた、間違った健康常識を正して疲れない体を維持するための方法を教えてくれる本です。主にお年を召してきた方向けな気がしますが、スポーツのパフォーマンスを向上するための誤解などにも説明をしているので、若い人でも読んで損はないかもしれません。

私はこの本を読んでいるときに、本題とはほとんど関係ない部分が気になってしまいました。フルマラソンをすると2500キロカロリー消費するという事実についてです。(この本でフルマラソンをおすすめしているわけではありません。単に話の流れでこの情報が書かれていただけです。)

ランニングによる消費カロリーについて

インターネットで調べてみると、運動をしたときに消費するカロリーはMETsという指標を使うのが便利で、それによると

$$1.05 \times METs \times time [hours] \times weight [kg]$$

が消費カロリー [kcal] になるようです。timeは運動時間、weightはあなたの体重です。ランニングの場合はだいたい時速がMETsと同じ程度になっているようです。たとえば時速8.0km/sで走っていたら、8.3METs (~ 8METs) を代入すればいいようです。ですのでだいたい、消費カロリー = 走行距離 \( \times \) 体重、ということになります。
フルマラソンならだいたい42km走りますので、60kgの男性だと2500kcal程度消費する計算になります。

この消費エネルギーを原理的に計算することはできないのでしょうか?私は以下のように試してみましたが、上の結果はうまく説明できませんでした。一応その論理を載せておきます。

まず、走る動作で一番たいへんそうなのは、体を浮かす動作ではないでしょうか。それに消費するエネルギーを計算してみます。
ランニング時はだいたい1秒で3歩くらい走ると思います。このとき、体が浮いている時間と足が地面についている時間を同程度だと仮定すると、一回のキックで体が浮いている時間は $$t = 1 \ {\rm sec} \times 1/3 \times 1/2 \sim 0.17 \ {\rm sec}$$ くらいと見積もれます。この滞空時間を得るのに、どれくらいの高さを飛べばいいのかは、高校のはじめで習う公式から、$$ height [m] = 1/2 \times g \times (t/2)^2$$ を使えばわかります。ここで、\( g ( = 9.8 m/s^2) \)は重力加速度です。\(t\)にかかっているの1/2は、上がって下がるのに\(t\)かかるので、上がるだけだと\(t/2\)だけかかるからです。代入すると、毎ステップごとに \( height = 0.04 \ m \) だけ体がういていることになります。なんとなくあってそうな値ですね。これに要するエネルギーは、$$ energy [J] = M \times g \times height$$です。\(M\)には体重を代入します。エネルギーの単位であるJ (ジュール) は、同じエネルギーの単位である cal (カロリー) とだいたい \( 4J \sim 1 {\rm cal} \) の関係があります。結局、毎ステップで消費するエネルギーは$$ energy[cal] = 60 kg \times 9.8 m /s^2 \times 0.04 m \times cal / 0.004J \sim  6 cal$$となります。一秒に3ステップするので、一時間あたりだと$$6 cal \times 3 \times 60 \times 60 \sim 60 k cal$$になります。筋肉が使用するエネルギー効率は数十パーセントらしいので、実際に使用するエネルギーはだいたい100から200kcalくらいだと思います。意外と少ないですね。しかもこれでは消費エネルギーは時間に比例しているだけで、速度によっていません。これではMETsを使った公式が距離にしかよらないことを説明できていません。これから、ランニング時には体を浮かすエネルギー自体はそれほど重要ではないと言えるかもしれません。

別の視点から考えてみましょう。一定の速度で運動する物体のもつエネルギーは一定なので、体が浮遊していて摩擦をほとんど受けなければマラソンではほとんどエネルギーが必要ありません。
しかし実際は地面を蹴って体を浮かす必要があります。この地面を蹴る動作のときに、体が持っている運動エネルギーを失わないように足を動かす必要があります。そのとき、1ステップごとに足が後ろにいってしまうので、それを前に持ってくるという動作も必要になります。つまり、当たり前ですが足は前後に動かさないと行けません。これは一定の速度を持つ運動ではないので、エネルギーが必要です。この必要なエネルギーの量を見積もってみましょう。

走る速度が\(v\)なら、足の速度も\(v\)程度になります。この運動エネルギーは、$$1/2 \times M_{\rm leg} \times v^2$$となります。\(M_{\rm leg}\)は足の重さです。一回のステップでは足を前後に動かすので、この2倍のエネルギーを必要としそうです。一秒間に3ステップするので、1時間あたり必要なエネルギーは$$energy [cal] =( 1/2 \times M_{\rm leg} \times v^2 \times 2 ) \times 3 \times 60 \times 60 \times cal / 4J$$となります。しかしこれでは結果が速度の二乗に比例しているので、METsを使った公式はこれでも説明できていません。

運動を通してわたしたちの体が使っているエネルギーというのはこんなには単純ではないということなんですね。不思議です。

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